演奏とミュージシャンの内面
ジャズを演っているとたまにそこそこ名前が出ているミュージシャンと仕事がいっしょになる機会がある。
彼らが通常出ている店はもっと高級なジャズクラブが多く、当然共演するミュージシャンもレベルが高い。
ところが、私らのそんなに上手くない演奏と店の雰囲気やお客さんのノリが合うときがある。
すると彼らは何かいつも感じない初心のようなものを感じて「すごく楽しい、すごく楽しい」と演奏終了後も残って余韻を楽しんだりしている。
音楽の深い部分かもしれない。
ホテルラウンジのクリスマス演奏仕事
クリスマスはジャズミュージシャンがちょこちょこ呼ばれる季節でもある。
ホテルラウンジはX'masディナーセットとかけっこういい値段でのディナーが組まれ、私たちは5セットをやることになり、私は昼の仕事を定時速退社で向かった。
この仕事は最悪だぞ、とミュージシャンの間で噂されていた。
演ってみると若いカップルばかりなんだけど、その後が気になって演奏を聴くどころじゃない男とぎこちなく緊張している女が各テーブルに1組みづつ座っている。
演奏しても拍手一つもこない。シーン…。ガヤガヤしてたらまだいいが、それもない。
それを5回。毎回客は入れ換わる。
しかもスティック禁止でマルチロッド(竹ひごを集めたような柔らかい音の出るスティック)指定という。のれんに腕押しみたいなライブだったが、唯一の収穫はそれをきっかけにマルチロッドを買ったということだ。
プロドラマーになる条件
高校でドラムに目覚め、一生懸命練習していた頃に創刊となったリットーミュージックのドラムマガジン。
当時は情報がないので私は全ページ広告の一字一句までくまなく読んだものだけど、その中に誰かプロドラマーが書いた「スティック100本折ればプロだ」みたいなインタビュー記事があった。
そのぐらい練習すればプロになれるという例えだったんだろうが、高校生だった私は妙に納得した。
よし練習してプロになるぞー!
あれから35年経つが、現時点で私はプロになるまでにあと97本だ。
ジャズのお店とお客さんの入りの関係分析
ライブ演奏をやっているジャズクラブやジャズ喫茶とお客さんの関係、集客力は何種類かのパラメーターに分かれる。マーケティング視点で分析してみよう。
パラメーターは以下だ。
・オーナー(マスター)の人柄
・出演ミュージシャンの質
・チャージとギャラの設定方針(経営方針)
・店の雰囲気とロケーション(ハードウェア的要素)
オーナーのジャズや店に対する方向性が決定的な要素だ。企業で言うと社長であるわけだから、そこが起点となる。
まずライブの音楽スタイル(バップ中心とか、オーナー目利きで何でもありとか)。ここに強い意志が入らないと店につくお客さんはいなくなる。クオリティが保てなくなるのだ。
クオリティというのは音楽のテクニック的レベルという場合もあるが、テクニックは度外視してオーナーがこれは面白いというものをライブ演奏許容させることもある。
ここに店(オーナーやマスターの人柄含む)に対するファン化がおこり、ファンになったお客さんは店についているという言い方ができる。その店に行くと自分の知らないミュージシャンが演奏してても、オーナーセレクトの範囲で安心できたり、知らないカテゴリーを面白く聴けたりすることになるのだ。これらを通して、オーナーとの会話を楽しみに店に通うことが生まれたりする。
ただし、これには店側が努力しなければならないし、リスクも背負う。目利きがズレると誰も店のファンにはならないし、チャージ設定やミュージシャンへのギャラ支払は店が一定以上の責任をもつことになるからだ。
例え客が0でも、オーナーがブッキング責任を負い、ミュージシャンには指定のギャラを払わねばならない。
逆に客を引っ張ってこれるミュージシャンに頼りきるやり方も多く見受けられる。この場合は店のオーナーとしての基準は音楽より銭となる。チャージバック(ミュージックチャージの○○%をミュージシャンに返す契約)で最低○○人から集客してください、とノルマをミュージシャンに課すようなスタイル。
集客力ある有名ミュージシャンや外タレは、そうそう簡単にブッキングできるものではない。とすると、そこそこ集客してくれて頼みやすい人をターゲットになってしまう。OLだ。
ジャズボーカル教室に通うOLを数組出演させてバックミュージシャンをプロで固めるライブ構成。OLが一定のお客さんを呼ぶというのが出演基準であり、OLは歌いたい。
たまにライブをやるとお客さんも呼びやすいし、たくさん来てくれる。OLが呼ぶお客さんでジャズ聴く人はOLの会社関係で少し年配の方が多いので店的にはお酒も料理もまま出て、しかもまとめて数組出演させると店的には儲かる。ある種のビジネスモデルと言えるだろう。
が、音楽的クオリティは低い。バックミュージシャンは素晴らしいが、総じて聴くとダメである。発表会と同じ形式だから。
これを続けると店につくお客さんというのは皆無となる。当たり前だ。この形式をやり続けるしかなくなるわけだ。アマチュアロックバンドにチケットノルマを課す貸しライブハウスに銭に対する色気を足したようなものだ。
実際には両極端ではなく、その間をやっていたり、ライブによって行き来したりすることが多いかもしれないが、ライブ中に「ちょっと歌わせてほしい」と言ってきたOLや親父ボーカリストを店側がすんなりシットインOKとするか、ちょっと待てとオーナーがその人を吟味して断るときは断るかが分かれ目かもしれない。
そんなわけで、お店にもミュージシャンにもほどよくお客さんが付いているのが新しい交流も生まれていい状態だと思うのでありますが、ジャズの店のオーナーはどこまでそういうことを考えながら経営しているのかはよくわかりません。背に腹を替えられぬ、で已む無く発表会形式にいっちゃったのかもしれないけど。
さて、マーケティング的に見て分析合ってますかしら。。。
結婚式の演奏仕事
ジャズは臨機応変に音楽を変えれるということで、結婚式の生バンドとして呼ばれることがある。
だいたいは板付きだ。板付きというのは持ち場を離れることができずに、ずっと待機しておく状態のこと。バンドリーダーが式の進行をよく見ながら、瞬時にカウントを出したり、フェードアウトを指示したりする。やっててなかなかいい演出だと思う。みんなお客さんというか列席者はハッピーな気持ちでいるしね。
「かんぱーい!」(主賓)「ではご歓談ください」(司会)と同時にタラララーとイパネマノ娘を始めたりする。合わせてカーテンがオープンしてパッと会場が明るくなる、なんてこともありました。
さて、これはプロベーシストに聞いた話。
ドラマーが遅刻して、もう式が始まるというのに来ない。結局、開始までに間に合わずにドラムレスで演奏を開始することになったらしい。
「新郎新婦の入場です!」パンパカパーン♪
なんと新郎新婦の後からドラムセットをこそこそ台車で搬入するドラマーがくっついて入ってきたと。ウソやろ…。式が進行するときにカチャカチャ組み立てるので、列席者は気になってしょうがなかったらしい…。
ミュージシャンネタ的には大笑いだが、結婚式ぶち壊しの最悪のケースですなw
大御所プロギタリストに学んだこと
数年前に閉店したが、六本木にあったファーストステージというジャズのちょっと変わった店にはアマチュア中心のセッションにプロの有名ギタリスト杉本喜代志さんがよく顔を出していた。
15年以上前のことだがその杉本さんとセッションで演奏していたときのこと。
彼以外はアマチュアでアルトやテナー、トランペットとか大勢入ってハービーハンコックの8ビートの有名曲、カンタロープアイランドを演奏していると、コーラスの頭になると私を見てこぶしを上げて怒っているようだった。
そこにアクセントを入れろという指示のようだったが、私はそこに毎回アクセント入れるのは嫌だったので、ずっと無視してノーアクセントで通した。
曲が終わってから「アクセント入れろと手振りしたろ!」と言ってきたので、「頭に毎回入れるのはダサいと思っている。だから入れたくないし、あえて入れなかった」と答えた。
すると思ってもない反論が返ってきた。
それは上手い奴とやるときに表現すればいい。今のセットはお前がアクセント入れないせいでどこがコーラスの頭か迷ってしまうフロントが何人かいたろ。音楽全体を考えないとダメだ。
頭が下がった。
その一件以来、私はそういう目でメンバーの演奏に対応することにしている。