ストリートは道路交通法違反に気をつけろ
2ヶ月に1度いっしょにライブしているアルトサックスの横ちゃんは毎日渋谷の交差点でストリートをやっていた。そう、やっていたのだ、つかまるまでは。
ストレートなジャズをやっても新しい明るいセンスでお客さんをもっていってしまうプレイヤーで、彼がバンドにいるとサウンドがビシッと締まる。
ライブの後でも毎日渋谷に行き、終電までストリートをやるのには感心するというか、熱意のすごさに感嘆するのだった。あの電車が止まった大雪の日にもやっていたというから恐れ入る。
しかもサックス吹きながらコンピューター持ち込んでDJをやるというかっこいいスタイルで、毎度人だかりができる。渋谷駅のコインロッカーがDJ機材置き場だ。インバウンドの方々は遠慮なく踊る。若者も踊る。サラリーマンは足を止める。私も何度か見にいったが、一度は年配ホームレスの方が控えめに踊り、イェーイと声をかけていた。素晴らしい光景だった。
そして、巡回のおまわりさんが来ると止められて終了。始末書を書かされる。毎日。
道路交通法違反だそうな。
すぐに止められるケース、少し待って区切りで止められるケース。2時間ぐらい演奏できて街頭がクラブに化けることもちょこちょこあったらしい。
話を聞くとおまわりさんとの友情みたいなものも垣間見れる。
・明日から持ち場がかわるから今日で最後とあいさつしてくれた
・君が一番客を惹きつけてたね、と講評してくれた
・あなた用の始末書を用意しましょうか、と冗談を言ってくれた
などなど。
ところがサミットがあるとかで、警戒にあたるときは普段と違うおまわりさんが投入されるので、かなり厳しく怒られたりしたらしい。渋谷のストリートは生々しい。
そして、ある日起こらないと思ってたことが起こってしまった。連れていかれてしまったのだ。
一晩過ごし、17番と呼ばれ、いっしょに中にいる人にお前はどんな悪事を働いたのかと聞かれストリート演奏をしたと言うとそんなことでつかまるのか、と驚かれたと。
気の毒で本人はかなりトラウマ強く残るような体験をされたが、話を聞くほうは悪いけどかなり面白い。
「17番、ミスなくこれを吹かないと出所はできません」と言われ難曲の譜面を渡され、一切間違えることができないすごいプレッシャーで演奏する夢にうなされると。
サックス吹いてつかまったのがごちゃごちゃにミックスされてそういう悪夢にうなされるのはわからんでもないが、まだ引きずっている本人を横にしながら爆笑してしまった。
渋谷の交差点横でDJやりながらアルト吹く姿はかっこよく、実に都会の絵になったが、さすがにその風景は終わってしまったのでした。